
ベンズアルデヒドとは?
- モモやリンゴ、ウメ、プルーン、アーモンドなどの バラ科の果物に含まれる香り成分。
- 安価な香料として用いられるほか、抗炎症作用、免疫力の向上などの効果が認められている。
- ベンズアルデヒドには、大脳辺縁系を刺激して気分を落ち着けてくれると言われている。この香りの作用を上手に利用したのが、「おばあちゃんの知恵袋」の一つ「頭痛い時は梅干しをこめかみに貼る」。
特徴
- 顕著な抗腫瘍効果が認められる
- 毒性はほとんどなく、長期連続投与が可能
- 薬剤耐性が生じにくく、長期の有効性を保つ • 転移を起こしにくい
- 痛みを軽減させる
- 認知症予防の可能性
作用機序
- 癌細胞において多量に発現されているシグナル伝達を補助する結合タンパクである14-3-3ζとclient蛋白との蛋白間結合を抑制することによって、腫瘍の生存、増殖シグナルを抑制する。
- 脊髄後角に高発現した14-3-3ζが痛みの抑制に関与するGABAB1と結合するために、GABAB1B2の2量体形成が抑制され、受容体機能が低下する。14-3-3ζを抑制することで、疼痛を抑える可能性がある。
- タウタンパク質のリン酸化の維持に関わっている14-3-3ζ を抑制することで、アルツハイマー型認知症などにおいても神経変性の部分に作用し、進行を抑制する可能性がある。

歴史
年表
- 1961年:旧約聖書からイチジクに腫れ物を治す作用がある可能性を知る
- 1967年:イチジクの果汁から抗がん物質を発見する
- 1971年:抗がん物質が「ベンズアルデヒド」であることが理化学研究所で同定される
- 1975年:科研製薬により製品化され、臨床応用して有効性を認める。CDBA、BG
- 1980年:国際癌学会(アルゼンチン)でCDBAの効果を発表
- 1981年:12の大学病院で臨床試験が開始。結果発表の前に中止命令がでる
- 1985年:米国国立スローン・ケタリング癌研究所の機関誌に論文が掲載
- 科研製薬より注射薬の製造が打ち切り
- 明治製菓の協力でアルコルビン酸を加えたSBAの製造を開始
- 1991年:明治製菓より協力の打ち切り
- 2005年:白鳥製薬で、CDBAの内服と坐薬の製造開始
- 2011年:慶応大学医学部先端医科遺伝子制御研究部門で作用機序が解明
- 2017年:国会議事録から過去の打ち切りの理由が判明
基礎研究
理化学研究所
- 人工的にがんを移植したネズミでは、約50%程度の効果を示した。 生まれつきがんになるネズミ族では、従来の抗がん剤はほとんど効果を示さなかったが、ベンズアルデヒドは約65%の効果を示した。
- 60匹の犬で半年間にわたる毒性試験
- 国立遺伝学研究所での細菌の変異などの実験
臨床試験
- 理化学研究所員の親族 直腸がん、1年9カ月で消失。 胃がん、腹膜転移、1年8カ月で消失。
- 東大職員親族 肺がんで治療中に効果不良で治療。病状安定。
医薬品化
- 科研製薬(理化学研究所を株式会社に改組して発足された製薬会社)より医薬品化が決定
内服薬・座薬 β‐Benzaldehyde β-cycrodextrin clathrate (CDBA)
注射薬 4,6-O-Benzylidene-D-glucopyranose (BG) 揮発性の物質で構造が不安定なため難渋したが、1975年に誕生
CDBA使用症例
- 1980年1月、米国国立がん研究所の機関誌『キャンサー・トリートメント・リポーツ』に発表。
- 手術不可能患者90例と重症がん患者12例の102例に投与。
- 10mg/kgのCDBAを投与。
- CDBA投与のうち57例。CR 19例、PR 10例。
- 舌がん4例は1.5から6カ月で著明に回復。
- 鼻腔がん1例、肺がん1例は3カ月経過して著効。
- 白血病の4歳の男児は4カ月で寛解。
- 肉腫に対しては30mg/日、扁平上皮癌や腺癌に対しては300mg/日以上が必要。

1978(昭和53)年にはアルゼンチンで開催された国際癌学会において、 CDBA(β‐サイクロデキストリン‐ベンズアルデヒドの内服薬)を用いた臨床応用の結果、 副作用はなく有効性を認めたと発表しています。
BG使用症例
- 1985年、過去10年間に治療を行った結果を米国国立がん研究所 の機関誌『キャンサー・トリートメント・リポーツ』に発表。
手術不能となったがん患者さん65人
CR 7例、PR 29例、SD 24例、PD 5例 悪性リンパ腫、舌がん、肺がん、胃がん、肝臓がん、大腸がん、 乳がん、子宮がん、膵臓がん
臨床試験の拡大
- がん治療学会で慈恵医科大学の教授は、ヌードマウスにヒトの腎細胞がんを移植した後、BGの単独投与と放射線と併用したときの結果をデータによって詳しく説明。BGを単独で投与したところ腫瘍の増殖が停止し、投与を中止した後も再増殖の傾向は見られなかった。また、放射線との併用でも腫瘍の縮小が見られ、腫瘍の抑制効果が認められたと同時に、延命効果も得られたと結論づけた。
- 富山医科薬科大学の教授は日本細菌学会において、3年間にわたって行ったベンズアルデヒドの基礎研究を報告。
- 動物を使った実験で、ベンズアルデヒドががんに対して転移を抑える働きを持っている。
- ヒトと動物では必ずしも同じではないものの、ベンズアルデヒドが免疫活性を高める。
- 1981年(昭和56年)には全国12の大学病院で注射薬(BG) による動物実験および臨床試験が開始。
その後も研究は続けられ
- 1985年(昭和60年)、かねてより投稿していた東風博士の論文が、米国立がん研究所の機関誌『キャンサー・トリートメン ト・リポート』(5月号)に掲載
「BGを720-1800mg/m2/日で65名の手術適応のない進行癌患者に投与した。55%の奏功を認め、7名にCR、29名にPR、24名が NC、5名がPDだった。副作用は認めなかった。」
しかし、製薬会社の協力は得られなかった。 - 同年、ノルウェーのペッターセン博士は「ベンズアルデヒドのメカニズムは、ベンズアルデヒドががん細胞のタンパク合成を阻害することが効果の主な原因で、生体化学の基本物質ともいえるベンゼン核ががん細胞を攻撃すると考えられる」という実験結果を発表。
- 明治製菓が協力してくれることになる。
- アルコルビン酸を加えたSBA(5,6-O-ベンジリデン-L-アスコルビン酸ナトリウム)の開発開始。
- カリフォルニア大学海洋研究所所長のアンドリュー・A・ベンソン氏のアドバイスによる。
- 1991年SBAに関して米国で特許取得、翌年に日本でも特許取得。
- 1991年に明治製菓の社長の交代とともに研究協力が終了(当時の癌学会会長の圧力があった)
- 2005年白鳥製薬の協力を得る。
- 2006年齋藤潤医師が臨床研究に加わる。
- 医師主導の臨床研究という形でCDBAの内服と坐薬で継続。GMP(good manufacturing practice)基準で製造。
- BG、SBA(注射薬)は封印となる。
- 作用機序を解明するためにベンチャー企業に依頼。ベンズアルデヒドがmTORを有する経路に作用していることを発見。
- しかし、なかなか進展がなく、ベンチャー企業が研究を打ち切る。
東風博士の死去
- 東風博士が脳梗塞で倒れる。
- 2010年3月14日1時3分、東風睦之博士永眠される。 享年98歳
「世間はベンズアルデヒドの抗がん剤を認めようとしなかったけれど、私は多くのがん患者さんを治せたことを幸せに思っている」